NILS2日目では、Web2.0 for Enterpriseということで、企業内環境でのWeb2.0ツール活用可能性をテーマとしたセッションのモデレータを務めた。
登壇されたのは、SocialTextのRoss Mayfield、及びリアルコムの谷本さん。SocialTextはWikiベースの企業内コラボツールを作っているStartup。Ross自身は当地でも有名なBloggerで、彼と話をしていると色々面白い。同社とは、当方かれこれ1年位の付き合いになろうか。Globis小林さんのご希望を踏まえ、昨年RossにNILSへの参加打診したところ、快諾を得て今般の参加となった。
事前に想定していた進行は、SocialTextのRossが25分のプレゼン、リアルコムの谷本さん20分のプレゼン、15分のパネルの後に10分Q&Aという事前想定。実際は、種々事情で時間内に収まらず、Rossも全てを伝え切れなかった様子。
このセッションのモデレータを引き受けるにあたり、当方が本来論点として考えていたポイントを以下紹介したい。
(1)まずは現状認識
・組織の知識共有にあたり、KM(Knowledge Management)ツールは「Top Down」且つ「Structured Data」の蓄積・共有を念頭に始まった。
・現在起きているWeb2.0系ツールのEnterprise Computingへの適用努力はこれと全く反対のアプローチであり、いわば「Bottom Up」且つ「Unstructured Data」に焦点を当てている。
・組織の創意工夫やイノベーションは、本来現場且つAd Hocな構成員のInteractionを起点に展開しており、この「Bottom Up」且つ「Unstructured Data」を対象としたツール群の目指す領域は、まさに本領域。
(2)続けて論点めいたもの
・Wikiが非定型データの蓄積・交換・共有に効果的なのはQuite Agreeなるも、これを企業組織内で展開して行くには何らかの仕掛けが必要だろう。ツールを「ポン」と渡しただけで、物事が動き出すものなのか。具体的にツールの浸透を促進する仕掛け・コツは何か。
・完全なBottom Upアプローチによって、逆に組織としての企業体に何らかの悪影響を及ぼすファクターは無いか。Wikiが「求心力」ではなく「遠心力」としてWorkしてしまうリスクは無いか。当該リスクを防ぐ為の運用の心得として何かないか。
・Unstructured Dataを「テキスト」として組織内で蓄積・共有して行く事の有効性を最大に引き出すには、当該Unstructured Dataの検索技術がキーだろう。非定型データのハンドリングは、ある意味インターネット上の検索エンジンが数年来テーマとして来た分野である。YahooのJotSpot買収という噂は、内容の真偽は別としてまさにこの感覚に沿った現象。Wikiベンダとして、Search技術をどう取り込むか。これをGoogle Appliance等でカバーしてCoreとしないのであれば、逆に当該ベンダのCoreは何か。(この論点は、当方の2月20日のエントリ「インターネットサービス系ツールの企業向け適正価格とは」も参照。)
・Wikiでページをどんどん作って行って、Freeのテキストデータを溜めて行くのがEnterpriseの情報共有手段として最適解か。情報の再利用性や検索性を考えた場合、Unstructured Dataから出発するも、ある程度再利用性を念頭に置いた形式化が有効ではないか。例えばネット上の汎用的なSBMでタグを付けるケースと比較して、Enterprise用途では問題空間をある程度事前想定出来る余地が大きいだろうから、各テキストデータの「意味」をうまくハンドリング出来る可能性がより高いのではないか。(この論点は、当方の昨年12月19日のエントリ「YahooがAIの専門家受け入れ」も参照。)
・(上記論点に関連して)Unstructured Dataのハンドリングに一部形式化を持ち込むことを考えた場合、どのような問題空間(適用業務空間)の絞込みが有効か。Industry毎の切り分けや、業務分野毎の切り分け等、何か事例が無いか。
(3) 行き着く先
将来像として、個人的には以下イメージあり。
・「Wikiが企業に浸透」して「Unstructured Data」が企業に蓄積されて行く中で、情報入力・検索・再利用の効率性向上を意図して、自然な次のステップとして「決まりきんときの概念」や「フロー」に対して形式化の欲求が高まって来るのではないか。
・そして最終的には、企業内各業務処理場面で「この業務は決まったワークフローとデータ型定義で対応」、「ここから先はUnstructured Dataの処理」と切り分けがなされ、さらに「Unstructured Dataの処理」場面においても、適用業務毎に一部形式化された情報処理(事前に「意味定義」が組織内で共有されたタグの活用等)が入る分野と、全くのカオス状態でフリーテキストが飛び交う分野に分かれるのではないか。
・また、「Structured Data」と「Unstructured Data」間のブリッジ機能に焦点が当たって行くのではないか。Wikiの世界での各自のInteractionの結果やプロセスを現行のワークフローベースでのシステムへの入力とする試みがTryされるのではないか。
・おそらく「Structured Data」と「Unstructured Data」の境界線は、各組織において時間の経過と共に変動して行く。「特定分野でのUnstructured Dataのやりとり」 → 「当該やりとりの蓄積よる形式化可能分野の抽出」 → 「一部形式化」 → 「形式化」という「ライフサイクル」めいたものが出て来るのではないか。
きりが無いのでこの辺でやめておくが、このあたりの論点を考えるにつけ、SAP VenturesがSocialTextに投資した事実が改めて興味深く思われて来る。
近々RossとPalo AltoでDinner予定故、後日機会があればFollow Upを本Blogで紹介してみたい。
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