Wall Street JournalのOnline版に、Chicago大学Business School教授のRaghuram Rajanに関する記事があった(Mr. Rajan Was Unpopular (But Prescient) at Greenspan Party)。
同氏の主張は竹森俊平氏の近著「資本主義は嫌いですか」内で紹介されていたので御存知の方も多いと思うが、同氏はIMFのchief economist職を務めていた2005年の時点で金融危機の到来を予測。その根拠の1つとして投資家の過度のrisk take傾向を指摘し、その原因を各種ファンドの投資責任者(GP:General Partner)への報酬体系に求めた。即ち、人(LP:Limited Partner)のお金を運用して「投資に成功したら儲けの20%をGet」して「失敗しても損失負担は無し」というupsideに偏重した業界の報酬体系が、過度のrisk takeや出現頻度の低い大きな損失可能性に対して目をつぶる投資行動を招いたと説く。この投資行動とは、例えば短期資金を目いっぱい引いて極薄の自己資本ベースで長期の証券化商品で運用をしたり、実際にpayoffが連発したら対応しきれないレベルまでCDSを売って行く行為を指し、いずれも「順調なうちは相応の運用成績を叩き出せるが、いざという時には即アウト」という話である。まあ、他人の金を運用して、損しても責任取らなくていいけど儲かったら2割貰えるというニンジンをぶら下げられたら、頻度の低いクラッシュの可能性に目をつぶり、比較的容易にMarketをoutperformする(しているように見える)戦略をとりたくなるのが人間の性ということか。
Dr. Rajanは、このようなfund managerの過度のrisk takeを防止する手段として、投資収益が出た場合にfund managerの成功報酬をEscrow A/Cに一時depositしておき、将来Fundから損失が発生した場合はそこから損失分を差し引くplanを提案している。このようなclawback的な方式を採用すれば、「足元当面は順調なリターンが期待出来つつも何らかの拍子に将来大きな損失が表面化する可能性があるDeal」にfund managerが突っ込んで行くことをある程度防止出来よう。ちなみに、当地シリコンバレーのVC業界でも上記のような2割の成功報酬体系が広く採用されてはいるが、その弊害防止策として広く実行されているのが、投資実務を担うGP個人にまとまった金額をFundへ投資して貰うこと。これは、自分自身のお金がFundに投入されていればGPもそんなに無茶な運用はしないだろうとの読みがベースとなっており、相応に機能していると思う。
いずれにしても、今般の金融危機を受けて証券化が悪いとかCDSが悪いとかデリバティブが悪いとか、これら金融ツールそのものに対する批判が散見されるがそれは本質ではなく、問題はツールではなく上記のようなツールの「使い方」側にあるわけで、問われるべきは何故LPから見て合理的なリスク/リターンのバランスを大きく超えたツールの使い方がなされてしまったのかという点にある。そして、GPとLP間に存在する情報の非対称性(資金を預けている者から見て、資金を運用している者がやっている投資実務詳細や投資ポジションのリスク/リターン特性詳細を把握するのは無理)を考えればLPによるGPへのガバナンスというのは現実的ではなく、突き詰めるとLPとGPの経済的効用を揃えるしか解決策はあるまい。ツール自体を叩いてその利用に対する規制導入を主張する前にfund managerの報酬体系を見直してLPの利益に資する合理的な行動を促し、ツールの有効な面を活かし続けつつその使い方を改善すべし、というのが正しい方向性ではないかと思う。
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