5日のエントリで投資業界の報酬体系について少し触れたが、報酬体系の工夫によってFund Managerの行動パターンに規律を持たせようという方向は現実解なのであろうが、ある意味このような性悪説的な方向には一抹の寂しさを覚える。そしてふと、VC業界は逆に、本来性善説と志をベースにした存在であると思い至る。
今般の金融危機後に色々と論じられているHedge Fundや一部投資銀行の投資Practiceとは異なり、VCのベンチャー企業への投資は単なるリスク資産にhit and awayで資金を投じるという活動ではなく、資本の提供を通して無から新しい企業や時には産業を作り上げて行こうという活動であり、その中心には本来確固とした大義名分や志が存在する。例えば、Top Tier VCであるSequoia Capitalの創業者のDon Valentineは過去National Semiconductorを創業し、続いてFairchild SemiconductorのSales & MarketingのExecutiveを歴任。Execution Sideで半導体産業の形成において中心的な役割を果たしてきた人物だ。そして彼は更なる産業創造という大志を抱いて1972年にSequoia Capitalを興す。
そこには手っ取り早く儲けて問題が表面化する前に撤収、といった無責任な行動原理は微塵も存在せず、clawbackが無くても理にかなわない無茶な投資がなされることは無い。LPもそれを信頼する。理解あるLPをバックに投資の自由度が維持されてGPはその志に向かって益々邁進出来、成果が上がり、LPの信頼は益々強まり、、と好循環が回る。Sequoiaの投資スタンスはLong lastingな企業を作る、そして時には企業を作るのみならず新たな産業を作る、というもの。そして、70年代の初期においては投資した会社には10年かそれ以上の期間、社外取締役として関与を続けることを前提としていた。Don Valentineは、過去例えばApple、Cisco、Oracleの黎明期に投資を実行しており、長期に渡る関与を経て各々御存知の通り大企業に成長した。特にCiscoの社外取締役には初回投資から2005年まで18年間に渡って就任し続けている。Sequoiaの投資先は、その他ぱっと思いつくものだけでもElectronic Arts、LSI Logic、Yahoo、Google、YouTubeと大成功案件が続く。過去約500社に投資を実行し、約130社をIPO、160社をM&AでExitしている。Sequoiaの投資規律を問題にする人間はまずいないだろう。
多分、今回の不況は本物と偽者をある程度ふるいにかけるプロセスとなろうかと思う。弊方私見なるも、シリコンバレーはMost conservative scenarioを想定するとNetscape以前に戻っていくのではないか。以前にも書いたが、シリコンバレーの老舗一流VCが設立されたのは1970年代前半でその歴史は40年近くに及ぶが、VCの裾野が広がってSand Hill Roadを超えてシリコンバレー各所に数百社のVCが並び、これらVCから資金を引いて多くの人々がCasualにベンチャーを興して誰もが数年でNasdaqへのIPOを狙うといったPracticeが定着したのはNetscape以後のたかだかここ10年ほどの現象である。(ちなみにこのようなPracticeに関与しているVCを、Don Valentineは"day-trader VCs"と呼んでいる。)今後VC業界は、長期に渡って投資先に関与し、じっくり新しい企業や産業の創造に取り組むという活動をコンスタントに過去からずっと続けて来た人々が残り、以前の業態に戻って行くのではないかと思う。そういう意味で、今般の金融危機と不況がVC業界を"back to basics"に戻して行くTriggerになったと考えれば、あながち悪いことばかりでもなかろう。
正月休みの最後、MexicoのCancunからDenver経由でSan Franciscoに戻る途中、Denver空港のアメリカ入国審査官は当方のパスポートを眺めながら「職業は?」と質問して来た。いつもの通り「ベンチャーキャピタル」と答えると、「ああ、今大変でしょー」と言う・・・。VC業界の問題はDenver空港の入国審査官にまで伝わっているのかと苦笑しつつも、「まあね。でも結局自分がやるべきと思うことをやり続けるしかないでしょう、君もそうでしょ?」と応えると、「だよね」と答えが返って来た。
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