昨日のことだが、当方が5年前にシリコンバレーに渡る前からかれこれ8年ほどの付き合いになるインド人某起業家とランチ。彼が指定して来たのは東京駅にほど近い某French Restaurant。
約束の時間の5分ほど前に到着し、窓から外の景色を眺めて過ごす。すると起業家殿到着。根っからの営業マンの彼は最初からきさくで、久しぶりの再開を互いに喜び一気に打ち解ける。テンポの良い英語のやりとりが何とも心地よい。
彼は10代半ばでインドを離れてアメリカに渡り、米国で教育を受けて仕事のキャリアを積上げた。そして日本に渡ってIT系企業数社に勤めた後に起業して11年。既に金の為に働く生活からは脱却可能なだけの蓄えを有している立場にある。
「Daveはサラリーマンぽくない」という彼のいつもの論評を聞き、「出る杭は打たれる日本企業にDaveが普通に勤め続けていることはある意味奇跡だ」とか「余程いい会社なのか、若しくは余程上司に恵まれただろう」とか散々言われながらも、毒舌の裏に随所に当方の行く末を案じてくれている気持ちが見え隠れして有難いと素直に思う。(ちなみに、彼の言う「サラリーマンぽくない」というのは言外にサラリーマンを揶揄する言葉のように聞こえなくも無いが、これは正直よくわからない。「サラリーマン」というのは、本来「仕事に対する報酬の貰い方の一形態」であり、「自由度とリソース獲得可能性のトレードオフの1つの均衡点」に過ぎない。)
さて、一通り互いの近況を伝え終わった後、聞いておきたかった2つの質問を彼に投げる。1つは経済的自由を既に手に入れた状況下で、何故彼は新しいビジネスに挑戦し続けているのかということ。もう1つは、インドで生まれ育ち、アメリカで教育を受けて仕事経験もある彼が、何故日本に留まり続けているのかという点である。
前者については、シリコンバレーでもよく浮かんだ疑問である。シリコンバレーで成功し、金持ちになってポルシェを乗り回しているような連中でも、20代~40代位の連中は相応の確率でまたビジネスに戻って来る。特に起業家はそうだ。数十億の資産を持つ人間が新しいベンチャーを興し、質素なオフィスで毎日遅くまでハードワークに励む。VCも然り。現在は大企業となったIT分野の企業を興して成功した後、VCに転向して投資検討分野の猛勉強に励む。シリコンバレーで駐在員として毎日ちゃんと朝会社に通っていた当方は、折りに触れて彼らに「なんで死ぬほど金持ちなのに働いてるの?」とアホな質問をよくしていたわけだが、帰って来る答えは色々あったが突き詰めると「自らの足跡を残したい」というのが大方の反応だったように思う。自分の事業を通して世の中をより良くしたいとか、自らの経験や知識・ノウハウを多くの人と分かち合って役に立ちたいとか。「認知」や「関与」といったキーワードである。そして、人によってそれに自分自身にもっとFocusした「自己実現」の要素が大きく加わる。今日のインド人殿の反応は、「事業を通してより多くの学びを得て、それを周囲に積極的に還元して行きたい」というもの。そして、その目的をより大きく達成するために、事業を大きく育てたいと言う。
これを聞いて、改めて、そしてつくづく、人生カネじゃないと思う。人生カネじゃないのであれば、そして仕事を「認知」や「関与」そして「自己実現」といった自らの足跡を残す手段として捉えるのであれば、金銭的なUpsideよりも仕事へのリソースの手当てやScale感の面でのBenefitをより得られる組織に身を置く、即ち大企業に勤めるオプションは極めて合理的であろうとも思う。あとは組織のニーズと自分がやりたいことの方向間を如何に摺り合わせ「続けて」行けるかが勝負となる。(このテーマはまた今度色々書いてみたいと思う。)
さて、もう1つの彼への質問。即ち、何故日本に留まり続けているのかという質問。先日も書いたが、日本の停滞若しくは衰退トレンドが見えて来ている中で、インドと米国にBackgroundを持つ彼が、起業家として何故日本に留まり続けているのかという疑問である。一通りビジネスプランを聞いてQ&Aのキャッチボールを終えた後、ざっくばらんに「その内容だったらアメリカかインドでExecutionしても面白いのでは?」と問うたところ、「やっぱりそうかもね」というある意味残念な反応。日本は世界でstill 2nd largest economyだ等々言いつつも、新しいアイディアや提案に対する社会の受容度は未だ未だ低いという彼の見立ては残念ながら正しいだろう。裏を返せば、11年間、外国人として日本で起業して事業を続けて来た彼の苦労は並大抵のものではなかっただろうとも思う。
尚、彼が日本に留まってこの地で再度事業を興そうとしている大きな理由の1つは、昨年結婚した奥さんが日本で仕事を持つ日本人であるということ。ちなみに蛇足だが、彼の奥さんはフジテレビアナウンサーの中野美奈子のお姉さんだったりもする。
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