8月20日のエントリ「VC業も普通の仕事」には、思いのほか多くのアクセスや反響を頂いた。色々とメールや口頭でご意見を寄せて頂いた方々に感謝申し上げる次第。今度は逆に「VC業は普通じゃない仕事」という題で思うところを少し書いてみようと思う。
が、その前に1つ。前回のエントリに頂いた反応の中に、「そこまでVC間の競合が激しいシリコンバレーは起業家にとって恵まれた環境だ」という内容のものが複数あったが、やや違和感を感じるFeedbackなので一応一言残しておきたいと思う。確かにシリコンバレーで出会った起業家の中にはじっくり投資家を選ぶ特権を持った者も沢山おり、VCとしてリターンを得るにはこのような「無理め」な案件で起業家に選んで貰うことが重要になるわけだが、一方で何ヶ月も何十社もVCを回っても全く投資資金が集められない起業家も多くいた。というか、大半の起業家はこちらの運命を辿っていたように思う。そして、VCから資金を一度得ることに成功した起業家も、結局大抵は失敗する。華々しく成功して高級外車を乗り回している起業家がいる一方で、巷には開発した製品が売上不振でVCからの追加投資を受けられずに会社を畳んだ元StartupのCEOや、VCに解雇された元CEOがゴロゴロしている。要は何事も力関係、ということ。希少なものに対して余っているものが群がるという、優勝劣敗の構図である。VC間の競争は激しいが、起業家間の競争だってそれ以上に激しい。どんな立場であれ、選ばれる立場になるには何らかのUniquenessとLuckが必要だ。そして、当方を含めてほとんどの人は凡人である。機会の平等と剥き出しの競争社会と明確な優勝劣敗。これを善しとするか否かは個々人の好みが大きく分かれるところだろう。
さて本題。シリコンバレーでVC業務をやっていて、「VC間の価値発揮競争」というのはある意味自明という意味で周回遅れの論点であり、より志を高く考えると、VCの価値とは「案件に対して関与する」という切り口をはみ出して「案件を踏み台に成功を主体的にGenerateする」ような様相を一部呈しているようにも思う。4年ほど前のシリコンバレーで、今をときめくCleanTech関連ベンチャーの創業期やSeriesA期に各社訪問し、差別化要因を全く見出せずに悩んで流した案件が、その後有名人VCから資金を得てみるみる間にメディアへの露出を増やして著名人Advisoryを多数抱えて政府から巨額の補助金やLoan Guaranteeをガンガン獲得するのを目の当たりにして、企業そのものが持つIntrinsic Valueそのものもさることながら、成功案件が投資家によって「見初められて生成される」側面に改めて思い至った。となると、VCの提供する価値は新たなIndustryの勃興そのものをProduceし、且つ当該新Industryをrepresentする勝ち組企業をある意味主体的に決めて世に提案したり経済界・政界・社会に対して世論形成をしたりする面にあるのではないかとも思えて来る。米政府高官がSand Hill RoadのVCを尋ね、これらTop Tier VCの投資先に連邦議会議員を多数乗せた見学のバスが巡回し、そしてそれら企業が政府の多額のLoan GuaranteeをGetする。VCが主導権を持ってかかるトレンドを醸成する、即ちVisionaryであること、「言いだしっぺ」であること自体がValueである、という側面である。
シリコンバレーのTop Tier VCのGPがえてして尊敬されるのは、彼らの活動が「自らが考えた仮説をベースに何らかの将来像のグランドデザインを提示して、且つ当該デザインの上で複数企業に投資をしてコミットメントする」、という知的努力と当事者意識の塊であるからだと思う。VCとしてキャリアを積み上げるのであれば、最終的にはこのレベルを目指すべきではないかとも思う。ここまで行くと、「VC同士の競争」という次元から突き抜けて、「自らの仮説の成否を世に問う」という勝負になり、更に言うと「自らの仮説のインスタンスである個別投資先の成功の為にあらゆる努力をして、自らの仮説が真実であるような未来を自らの手で作る」という勝負になって来る。いつの日か、このレベルの活動に従事出来る日が来れば良いな、、と夢想している。
尚、この「言いだしっぺ機能」というのは本来起業家が果たしている機能でもある。ただ、VCと起業家間で取り組む内容のレイヤーというか粒度が違うのだろうと思う。起業家は個別の案件を通して言いだしっぺ機能を果たし、投資家は新たな事業カテゴリやIndustry自体を考え出して世に問う。例えば、Vinod Khoslaがセルロース由来のバイオエタノール利用社会を世に提案し、その成否は兎も角、考えうるあらゆる技術Pathをカバーすべく関連ベンチャー多数の生成に関与して集中投資したことは記憶に新しい。
要は、本来のVCは起業家とほぼ同じことを「面」で複数同時進行やっているということである。なので、成功しているVCに過去起業・成功経験がある人材が多いことは偶然ではないし、VC内でAssociateからPartnerへの昇進ルートが原則存在しない、というキャリアシステムにもこれで合点が行く。起業家とVCは行動原理が根底でつながっている、そして起業家のキャリアのゴールとしてVCがあるという見方も出来よう。そう考えると、本来のVC業は普通じゃない仕事というか、少なくとも普通の経歴の人間には本来務まり切れない仕事であるとも思えて来るのである。
なるほど面白いですね。
日本の状況はどう思われますか
Posted by: kinkin | August 30, 2009 at 06:33 AM